ルベーグ外測度がσ加法性を満たさないことの証明 feat. ヴィタリ集合

 ルベーグ外測度がσ加法性を満たさないこと,ルベーグ外測度をΓ可測な集合の集合族に対してのみ適応したルベーグ測度はσ加法性を満たすことは測度論において重要な事実である.

 本エントリではルベーグ外測度がσ加法性を満たさないことをヴィタリ集合という選択公理の仮定から構成される集合を用い証明する.証明は二段に分ける.一段はヴィタリ集合の構成,二段ではそのヴィタリ集合のルベーグ外測度を測り,σ加法性を満たさないことを示す.

ヴィタリ集合の構成

 加法商群$\mathbb{R}/\mathbb{Q}$を考える.このとき,この商群は$\mathbb{Q}$分の差を持つ同値類を集めたものとなる.具体的には,

$\mathbb{R}/\mathbb{Q}=\{[0],...,[\sqrt{2}],...,[\sqrt{3}],...,[e],...,[π],...\}$のような形を取る.なおここで$\mathbb{R}/\mathbb{Q}$は非可算無限の濃度を持つことはカントール対角線論法などから示せる.この商群は,合同を$mod\; \mathbb{Q}$で定めるとき,$x\in \mathbb{R}, y \in \mathbb{Q}, [x]_{mod\; \mathbb{Q}}=\{x \;|\; x〜y\}$の同値類があり,その集合の$\mathbb{R}/\mathbb{Q}$であるともいえる.

 この$\mathbb{R}/\mathbb{Q}$から,選択公理を仮定し集合を作る.まず,$\mathbb{R}/\mathbb{Q}$からすべての値が$(0,1]$に収まるように代表系を作る.これをヴィタリ集合$V$とする.

ルベーグ外測度がσ加法性を満たさないことの証明

 このヴィタリ集合から,ルベーグ外測度$\mu^*$がσ加法性を満たすと仮定すると矛盾になることを導く.まず,$q_1, q_2,...,q_k,... \in (-1, 1]\;in\;\mathbb{Q}, k=1,2,...\in\mathbb{N}$としたとき,$V$の定義により

$V_k=V+q_k$は非交差.また,定義より

$(0,1]\subset \underset{k}{\sqcup}V_k\subset (-1,2]$

ここで,ルベーグ外測度$\mu^*$のσ加法性の仮定より,

$μ^*((0,1])\leq\mu^*( \underset{k}{\sqcup}V_k)\leq\mu^*((-1,2])$

$1\leq\underset{k}{\sum}\mu^*(V_k)\leq3$

ここで,$1\leq\mu^*(V_k)$なら$\underset{k}{\sum}\mu^*(V_k)=\infty$になってしまうので不等式を満たせない.一方$\underset{k}{\sum}\mu^*(V_k)\leq3$を満たす為には

$\mu^*(V_k)=0, \therefore \underset{k}{\sum}\mu^*(V_k)=0$でなければならないが,これも$1\leq\underset{k}{\sum}\mu^*(V_k)$を満たせないので矛盾.よって,ルベーグ外測度はσ加法性を満たさないことが示された.

余題

 これまでの議論で気づいた方もいるかもしれないが,実はヴィタリ集合のような測度論的に異常な集合はZFC公理系の中でしか作れなく,ZF+従属選択公理(DC)の元においてはあらゆる集合がσ加法族である,乱暴に言うとそのZF+DC下では全ての集合がルベーグ可測であることが示唆されている.興味のある方は調べてみてもいいかもしれない.